【ここからつづく】
明けて12月26日、相変わらず寒いながらも朝から晴れ上がり、格好の観光日和になりそうだ。部屋を出ると、目の前にこんなのがぶら下がっている。
チリペパーの名産地であるニューメキシコでは、チリは食材として使われるだけでなくこんな装飾品になってしまう。写真はサンディアという種類のチリから作ったニューメキシコの伝統的な装飾品でリストラと呼ばれる。本来はチリを乾燥させて保存するのが目的だが、魔除けの意味もあるらしい。街中至るところで見かけるリストラは色彩が淡泊な冬の風景に程よい風味を加えている。
ホテルのバッフェでしっかり朝食を腹に収めると、車を置いたまま歩いて街の探索に出かけた。最初に向かったのは、ガイドブックに必ず出てくるプラザ近くのロレット礼拝堂。ゴチック・リバイバルの建物自体は珍しくないが、奇跡の階段と呼ばれる螺旋階段で有名な教会だ。どういうわけかニューメキシコには奇跡が多い。
1887年にこの場所にパリのサン・シャペール寺院そっくりの教会が完成したとき、6メートルの高さにある合唱隊席に登る階段がなかった。そこでシスターたちは大工の守護神聖ヨゼフ(=イエスのパパ)に9日間熱心に祈りをささげ助けを求めたところ、どこからともなく一人の職人が現れ、この螺旋階段を作って立ち去ったというのである。作られた階段には鉄釘が一本も使われておらず、階段を支える柱がないことからいつの頃からか奇跡と呼ばれるようになった。正直なところ奇跡というにはやや物足りない気がしないでもないが、確かに見事な大工仕事ではある。果たしてひとり3ドルの入場料の値打ちがあるかどうかについては諸賢のご判断に委ねたい。
ロレット礼拝堂で奇跡を目撃したあと、同じ旧サンタフェ・トレイル沿いにあるバリオ・デ・アナルコ歴史区域に足を伸ばした。この地域には、米国で一番古い(と自称する)サン・ミゲル教会、米国一古い(と同前の)家のほか、数軒のボロい年季がこもった建物が保存されている。このなかで一番見栄えのするサン・ミゲル教会は1626年に初代が完成して以来4世紀のあいだ繰り返し改修・改築が繰り返されたが、いまでも1710年当時のアドビの壁が残っているそうである。この教会は外観だけ見させていただくことにした。
休み明けで再開したダウンタウン界隈の商店を見て歩いたが、いずれもアメリカ原住民が作ったターコイズと銀の装飾品、幾何学模様があしらわれた素焼きの陶器や織物など、同じようなラインアップですぐ飽きてしまう。どの店にも寸分違わない製品が置いてあるって、もしや中国からコンテナ船で渡来したものでは?
プラザ周辺にはいくつか美術館が集中しているが、その中から厳選してジョージア・オキーフ美術館を訪問した。ジョージアさんは1920年代に米国の美術界を風靡した画家で、ニューメキシコの自然と風物をモデルにした彼女の作品はアメリカの美術が欧州に広く紹介されるきっかけになったそうだ。美術館に入るとちょうど館員による作品の鑑賞ツアーが始まったところだったので、しばらく不可解な絵の解説や訪問客たちとの熱のこもった質疑応答を聞いていたが、まるで美術学校の抽象芸術の講義を聴いているような落ち着かない気分になった。館内に展示されているそれほど多くはない作品を一通り見て、早々に退散。頭脳構造が単純なのか、抽象的なものには即座に拒絶反応が出てしまうのである。
プラザに接する一辺は、米国でもっとも古い政府建物といわれているパレス・オブザ・ガバナーズという平屋建てのアドビ建築で、スペイン統治の時代から20世紀初めまで歴代の統治者の官邸として利用されていた。いまは僕が好きそうな州立の歴史博物館になっているが、残念ながらクリスマス休暇で閉館のままだった。この建物の前の長い回廊には原住民のアーチストたちがラグを敷き、延々と続く銀細工の露店を店開きしていた。冷やかしの観光客に混じって品定めするりす坊の眼差しは真剣そのものだ。
それほど広くはないダウンタウンをぐるっと歩いて回ったあと、ホテルに車を拾いに戻った。しっかり凍ったボトルウォーター持参で、これから本日の目玉、町から約1時間のところにあるペコス国立歴史公園に向かうのである。
ペコス歴史公園は西暦12世紀に原住民のペコス族が築いた集落(プエブロ)跡である。1450年頃には人口2000人の大きな要塞に成長し、周辺の交易の中心地だったようだ。公園内の小高い丘の上には当時の建物の基礎部分が発掘され整備されている。スペインの探検隊は1540年にこの地を訪れ、友好的に交流したがそのまま一旦立ち去った。1621年(日本では江戸時代が始まったころ)に彼らが再びここに戻ってきたときには、プエブロ族(プエブロに住む原住民)の征服と強制的な布教が目的だった。
ここの遺跡に廃墟として残る大きな教会はプエブロ族を労働力に使って築いたものらしい。スペイン人が強いる強制労働と貢ぎ物に次第に嫌気を募らせた各地のプエブロ族は、1680年遂に一斉蜂起してスペイン人達をメキシコに放逐した。ここペコスでも悪夢の痕跡を消すためキリスト教会が破壊され、宣教師達の命が奪われた。12年後再びスペイン人の統治が復活し同じ場所に教会が再建されたが、その教会も1838年にペコス族がこの地を放棄して以降永久に廃れてしまったのである。
征服者と隷属民の確執の地に残る廃墟は、無為な人の営みと時代の移り変わりを無言のまま今に伝えている。
【ここにつづく】
こんばんは( ̄(エ) ̄)ノトウガラシは魔除けにも便利ですね~。それにしてもリストラって名前が凄いなあ。それはさておき、ロレット礼拝堂の螺旋階段も凄い!階段の裏の曲線がいいなあ。3ドルは微妙…。それにしてもほんと寒そうですね~、ただいま日本も寒波に襲われていて、いたるところで雪が積もっております。ラストの写真、一瞬「あれ?画面になんかついてるぞ?」などと思ったら月だったんですね!
こんにちは! (^-^)お久しぶりです! まとめて、日記読ませてもらってました。クリスマスあたりからの、旅の様子とか。。。いいなーって。たくさんの写真と一緒にmarkさんの文章を読んでいると一緒に旅にしている気分になれます。個人的に、ジョージア・オキーフ美術館にすごくいってみたい!ある作家さんが、この方の美術館について本にかいてあってすごく興味深かったから。私の知らないいろんな町の風景や出来事、おいしいものの写真今年も楽しみにしてます!
≫森のくまさんほんと、確かにニンニクよりは合理的かもしれないね~。えい、ハバネロ攻撃、なんて。現地で螺旋階段に手すりがなかった頃の古い写真を見ましたが、まるでナイフでむいたリンゴの皮みたいな感じでさらに奇跡感が高かったです。そうそう、裏の板はイタリア家具みたいに木肌がきれいに磨いてありました。ニューメキシコの気候を体験するともう少々の寒さは平気と思ってましたが、LAの気候に体が慣れるとまたちょっとしたことで寒い寒いと騒いでいます。日本の冬はほんと寒いですから、暖かくしてお過ごしください。
≫ショコラさんなかなかお仕事で旅に出られないようなので、拙い旅行記ですが少しでもお楽しみいただければ幸いです。前にジョージア・オキーフの生涯を描いたドラマをTVで見て基礎知識はあったのですが、実際に作品を見て特に女性にアピールする画家ではないかと感じました。サンタフェとニューヨークに彼女の美術館があるそうです。機会があれば、他の人がジョージアさんの絵をどういう風に見ているのか知りたいものです。そちらも寒い日が続いていることと思いますが、お体に気をつけてくださいね。